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医療コラム
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先日、頭部外傷後の患者さんが紹介受診しました。
それほど頭を痛がっていなかったのですが、受傷時に意識消失があったので脳のMRIを実施しました。その結果が下の画像です。右下の方の脳の溝が白くなっていて、MRIのFLAIR画像で出血を示します。病名で言うと「外傷性くも膜下出血」です。これは脳動脈瘤破裂に伴うくも膜下出血を区別するため「外傷性」とつけることになっています。
当院ではMRAも標準で実施しているため、脳動脈瘤はすぐに否定できます。まあ、経過と出血部位から脳動脈瘤破裂ではないことはわかるのですが、念のため。そして、前の病院で作成していた頭部外傷後の注意書きをリニューアルし、当院用に作成しました。リニューアルと言ってもほぼ違う出来になっています。
骨折に関しては頭蓋骨骨折だと硬膜外血腫のリスク、あとは眼窩、内耳、頬骨、下顎骨の骨折や頚髄損傷などが問題になることがあります。それぞれ脳外、眼科、耳鼻科、形成外科、口腔外科や脊椎外科の範疇です。傷は縫合するか、綺麗にして創傷被覆材(湿潤タイプ)を貼付するかです。骨折は問題になるようなら病院に紹介し入院や手術になります。傷は基本的に当院で対応可能です。病院の頃の注意書きには「入院や手術は当院で対応します、傷は皮膚科や形成外科に紹介します」と書いてあったので「入院や手術は紹介します、傷は当院で対応します」と書き直しました。
そして、補足する疾患に慢性硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症を加えました。下の画像は慢性硬膜下血腫で、外傷時の検査では異常なく、1〜2ヶ月して血が溜まってくる病気です。病気と言っても外傷に起因するため外傷に分類されます。いわゆる血をサラサラにする薬(抗血小板剤、抗凝固剤)を内服している人、脳の萎縮で隙間がある人が発症しやすい病態です。
治療は局所麻酔で穴を開けて血を抜くだけです。再発する場合は血管内治療で血腫への血流を止める方法が効果的で最近の流行りです。器質化という再発例には開頭の結果は良くなく、内視鏡で縮小して血管内治療で血流を止めるの良さそうですが、そもそも器質化という病態は初期治療が良くなかったケースでなるため、最近はあまり見かけなくなった印象です。
そして、外傷で時々遭遇するため外傷の注意書きに特発性正常圧水頭症を加えました。これは下に示すように水が溜まってきて脳の障害を起こす病態です。加齢変化、パーキンソン病などと思われ、慣れないと画像診断も難しいため診断や治療に至らないケースが多いです。タップテストという検査で確定診断し、シャント術という手術で完治します。
先日、シャント術のデバイスを販売している業者が来たため、今のアプローチ(業者的にはマーケティング)では「手術で治る認知症」として専門の施設へご紹介下さい。となっていますが、それだとなかなか患者さんにリーチできないでしょう、という話をしました。もちろん、認知症症状も出ることがあるので、そこへのアプローチは間違いではありませんが、転倒しやすくなり外傷で医療機関に受診する方も多いし、よくある画像診断センターで放射線科医が見過ごしている(Coronal画像を標準で撮影しないため)可能性など問題点を指摘しました。
いずれにしても、頭部外傷の後に頭痛、めまいや痺れがあったり、脳が大丈夫かな?と思った場合、後から血が溜まったり、頚髄損傷や脊柱管狭窄が見つかったり、特発性正常圧水頭症が見つかったり、いろいろあるので、脳神経外科で脳の検査を受けることを勧めます。